「温度差」だけで動く!200年前の発明が今もすごい理由(スターリングエンジン)
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
たった一本のアルコールランプが、こんな力を生み出すなんて
「火を近づけただけで、機械が勝手に回り出す」——そう聞いたら、ちょっと魔法みたいだと思いませんか?
実は、これは200年近く前に発明された、れっきとした科学技術なんです。今回ご紹介するのは「Sunnytech ホット エア スターリング エンジン」というおもちゃ。

見た目もとてもカッコよく、実際に動かしてみたところ、想像以上の勢いで回転し始めて、思わず声が出るほど驚きました。今回は、この小さなエンジンに隠された「熱と運動の不思議な関係」について、お話ししていきたいと思います。
そもそも「スターリングエンジン」って何?
スターリングエンジンとは、ガラス管やシリンダーの中にある空気を温めたり冷やしたりすることで、内部の空気を膨張・収縮させ、その力でピストンやディスプレイサー(空気を移動させる部品)を動かし、回転運動に変えるエンジンのことです。1816年に、スコットランドの聖職者であり発明家のロバート・スターリングによって考案されました。
ガソリンエンジンのように「燃料を燃やして爆発させる」のではなく、外部から熱を与えることで動く外燃機関であることが、最大の特徴です。燃焼室の中で爆発が起きるわけではないので、構造がシンプルで、静かに動くという特徴もあります。
実際に動かしてみると…
まずは、アルコールランプに火をつけて、ガラス管の片側を温めます。

しばらく温めたら、フライホイール(はずみ車)に少し手で勢いをつけてあげます。

すると、まるで自分の意思を持っているかのように、エンジンがどんどん勢いを増して回転し始めます。その回転は発電機にもつながっていて、最終的にはLEDがしっかりと光るところまで確認できました。

実際に動いている様子は、こちらの動画でご覧いただけます。
「温度差」がエネルギーを生み出すしくみ
このエンジンが動く原理を、もう少しかみ砕いて見てみましょう。ガラス管の中には、密閉された空気が入っています。片側をアルコールランプで温めると、その部分の空気は温度が上がって膨張し、ピストンを押します。一方、もう片方は外気で冷やされているため、空気は収縮します。
この「膨張」と「収縮」が交互に繰り返されることで、ピストンが押されたり引かれたりし、それがクランク機構を通じてフライホイールの回転運動へと変換されていくのです。つまり、「熱エネルギー」が「運動エネルギー」に変換されているということになります。
ポイントは、燃料そのものの力ではなく、「熱い場所」と「冷たい場所」の温度差こそが、このエンジンを動かす本当の原動力だということです。
スターリングエンジンは、理論上は温度差さえあれば動くことができるため、太陽光を集めた熱や、工場などから出る排熱、さらには体温と外気温の差といった、ちょっとした温度差を利用して動くタイプも研究されています。
こっちはお湯で動くタイプのスターリングエンジンです。
エネルギーは「消える」わけではなく「形を変える」
「熱エネルギーが運動エネルギーに変わる」というと、なんだか熱がそのまま動きに置き換わっているように感じるかもしれませんが、実際には変換の途中でかなりの熱が周囲に逃げてしまいます。これは、エネルギー変換における「効率」の問題です。
これは、エネルギー保存の法則(エネルギーは新しく生まれたり消えたりせず、形を変えるだけ)と、もう一つの大切な法則である熱力学第二法則(熱は高温から低温へと移動し、その過程で利用できるエネルギーの一部は必ず失われる)という、二つの大原則が関係しています。
スターリングエンジンも例外ではなく、温めるために使った熱の多くは、最終的には「逃げていく熱」として大気中に放出されてしまいます。それでも、わずかに残ったエネルギーだけで、高速回転させ、発電機を動かし、LEDを光らせるところまで到達できるというのは、考えてみるととても効率的でパワフルな現象だと思いませんか。
「ロスが激しい」という見方もできますが、逆に言えば「これだけロスがあっても、こんなに力強く動く」というところに、エネルギー変換の奥深さとおもしろさが詰まっているのです。
意外と身近な場所でも活躍しているスターリングエンジン
スターリングエンジンは、実は私たちの生活ともまったく無縁ではありません。
たとえば、潜水艦の動力源として研究されてきた歴史があります。静かに動くという特徴は、音を立てたくない潜水艦にとって大きなメリットになるからです。また、太陽光を巨大な鏡で集めて高温を作り出し、その熱でスターリングエンジンを回して発電する「太陽熱発電」の研究も進められています。
身近なおもちゃから、最先端のエネルギー技術まで、同じ「温度差で動く」という原理がつながっている——そう考えると、今回のおもちゃのエンジンも、ただのおもちゃではなく、未来のエネルギー技術の入り口を見せてくれる存在のように思えてきます。
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