サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
皆さんは、あの伝説的なエンターテイナー、マイケル・ジャクソンが披露した「ゼログラビティー」という驚異的な技をご存知でしょうか? まるで重力から解放されたかのように、体が斜めに傾いても倒れない、あの不思議なパフォーマンスです。こちらの動画をご覧ください。
一体どうやったらこんなことができるのか?初めて見た人は、誰もがそう思いますよね。一見、魔法のように見えるこの技も、実は「重心」という物理法則を巧みに利用した、科学的なトリックなのです。
先日、私は写真が多くて読みやすい『介護のためのボディメカニクス』という本を読みました。そこには、ゼログラビティーの秘密を解き明かすヒントとなる、面白い題材が紹介されていました。たとえば、次の棒人間のお辞儀の様子を見て、皆さんはどう感じるでしょうか?
お辞儀をしている人
「あれ?なんだか変だぞ?」と感じた人は、理科のセンスがあるかもしれません。この違和感の正体こそ、マイケル・ジャクソンのゼログラビティーにも通じる、物理の面白い法則が隠されています。
転ぶ・転ばないの科学
看護や介護の現場では、「ボディーメカニクス」という、人間の体の動きを力学的に捉える知識が不可欠とされています。しかし、この知識は介護現場に限らず、誰かの体を支えたり、動かしたりする必要に迫られる場面は、私たちの人生で意外と多く訪れます。たとえば、ご家族が急に倒れてしまった時など、小さな力で相手を安全に動かし、自分自身も怪我をしないためにはどうすれば良いのでしょうか?そのカギとなるのは、次の2つのポイントです。
重心を下げること
相手にできるだけ近づくこと
今回は、このうち1つ目の「重心」に焦点を当てて、棒人間のお辞儀の違和感を科学的に解明してみましょう。物体が倒れるか倒れないかの境目は、その物体の「重心」が「回転軸」からはみ出るかどうかにかかっています。
実際に壁に背中をつけたままお辞儀をしようとすると、体が前に傾いた瞬間にバランスを崩してしまいます。これは、お辞儀をする際に、無意識に「お尻を後ろに突き出して」重心を足の上に戻し、倒れないように調整しているからです。最初に見た棒人間のお辞儀に違和感を感じたのは、この「お尻を後ろに出す」という重心調整の動きが描かれていなかったからなのです。
お尻を後ろに少し出さないと倒れてしまう
そして、倒れないように安定させるには、重心を低くすることが非常に重要です。重心が高いと、少し体が傾いただけで、重心が回転軸からはみ出しやすくなり、非常に不安定になります。
重心が高い物体と低い物体。同じ角度で傾けてみると、低い物体は倒れない。
この原理は、スポーツや介護の現場でも応用されています。相手を安全に動かし、自分も怪我をしないための基本的な姿勢は、重心を低くし、さらに足を広げて「支持基底面」を広げることによって、より安定した状態を作り出すことなのです。
もう一つのポイントである「相手になるべく近づく」ということも、実は物理学に基づいています。これは「力のモーメント」の腕の長さを小さくすることで、筋肉への負担を減らすという原理です。この力のモーメントは、高校2年生の物理で詳しく学びます。
今回ご紹介した本には、このような物理的な法則をイラストと共にわかりやすく解説し、介護現場で役立つボディーメカニクスがまとめられています。少し高価な本かもしれませんが、高校生でも理解できる内容です。ぜひ一度手に取ってみてください。
さて、皆さんが気になっている、マイケル・ジャクソンがなぜあの不思議なポーズで立ち続けることができたのか?その秘密はこちらをご覧ください。
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