【看護と物理】なぜ最高点からもう一度y軸を作らなくていいの?

医療系の学生・看護学生の疑問に答えます

看護学のための物理のやり直しリメディアル教科書『まるわかり基礎物理』を執筆しました。このことにより看護学生からの質問も届きます。今回はその第2回目で、高校生を教えている現場でもよくある質問です。第1回目はこちらからどうぞ。

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なぜy軸をとりなおさなくていいの?

放物運動には、鉛直投げ上げ運動という運動があります。この運動は初速度が上向きにある運動で、一般的には上向きにy軸をとって地面を高さ0mとして、その物体の位置の式や速度の式を使って、物体の位置を予測します。

<鉛直投げ上げ運動>

位置の式

速度の式

そこでよく聞かれる質問が、「最高点に物体が達したときに、y軸をもう一度設定し直して、自由落下の式を考えなくてもいいのですか?」という質問です。高校生でも質問にきます。

最高点に達したときに、もう一度軸を設定し直したくなる。

使う数式は最高点ではボールは静止しているから、自由落下!

 これは高校生の場合数学が得意な生徒に多くある質問です(そこまで気が付かない生徒も多くいます)。現場でもノートチェックをしていると、もう一度式をつくって考えている生徒をみつけることが必ずあり、良い機会だとおもってノートにしておくことがあります。

これは間違っていません。実際にこのように計算をしても、答えにたどり着くことはできますが、実は書き直す必要がないので、無駄なのですね。今回はこの質問に答えようと思います。

y軸を書き直す必要はない

y軸を書き直す必要があると思ってしまう原因は、

最高点以降は物体が折り返し地点をすぎて落ちてきている。

y軸がはじめに設定した方向とは逆になってしまった。

別の運動になっているのではないか?

と考えるためです。

具体的な数字をつかって検討を!

そこではじめに作った鉛直投げ上げの数式が使えるのかどうかを確認する必要があります。オススメしたいのは、文字だと抽象的でわかりにくいので、具体的な数字を入れて考えてみるという方法です(この確認法はいろいろな場面で使えます。ぜひ覚えてください)。

例えば重力加速度gを10、初速度v0を20としてみると、

ここに代入

この数式に順番に0〜4秒を代入してみると、

0秒  0m
1秒後 –5+20=15m
2秒後 –20+40=20m
3秒後 –45+60=15m
4秒後 –80+80=0m

となります。この値をグラフにしてみると、

物体が落下してきている様子が再現できていることがわかります。同じ式、使えるのですね!

変位と移動距離という言葉にも注意!

「落ちてくるから使えない」という考えは、変位移動距離という言葉がまざっているからかもしれません。変位とは「位置の変化」を示します。そのため移動距離と同じ場合もありますが、必ずしも同じとは限りません。例えば次の図を見てください。

左の図の場合は、変位も移動距離も、同じ15mです。しかし、右の図の場合は、移動距離は行って(20m)、落ちてきて(5m)なので、20+5=25mとなりますが、変位はあくまで原点からの位置の変化ですから、15mとなります。つまり変位は途中の経路に関しては問わない物理量であり、物体の地面からの高さを常に示しています。

鉛直投げ上げの式のyは、あくまで原点0からの変位を示しており、移動距離を示しているわけではありません。ですから落ちてきている場合でも、常に物体の地面からの高さを示してくれます。

数式から考えてみる

数学が得意な人は、位置の式yについて、頂点を求めてみるといいでしょう。

t=2のときにyは最大で20に達する

グラフにしてみると…

 このように鉛直投げ上げの様子が描かれますので、数式は上がっていくときも、落ちてくるときも使えるということですね。2次式が「放物線」と言われるのも頷けます。

速度もいける!

では速度はどうでしょうか。同じように(重力加速度−10m/s2、初速度20m/s)考えてみましょう。

代入すると…

0秒 20m/s
1秒 −10+20=10m/s
2秒 −20+20=0m/s
3秒 −30+20=−10m/s
4秒 −40+20=−20m/s

 となります。

速度にマイナスがついていますが、これはどういうことでしょうか。鉛直投げ上げの物体の様子に重ねてみましょう。

わかりますか?ここに速度の矢印を重ねてみると…

このように、速度についたマイナスは、y軸とは逆向きであることを示しています。

速さと速度

ここで確認をしておきたいのが、「速さ」と「速度」という言葉の違いです。物理では速さとは大きさをさします。

例えば0秒のときも4秒のときも速さは20m/sで同じということです。また速度とは向きも含めた物理量なので、0秒のときの速度は「+20」m/sであり、4秒のときの速度は「−20」m/sであり、速度は0秒と4秒で異なります

このように数式vは速度を示しており、落ちてくると単純に値にマイナスがついてくるということがわかりますね。

まとめ

位置の式も、速度の式もどちらも落ちてくるときまで使えるということがわかりました。安心して使いましょう。数式を途中で作り直す必要はありません。だからといって、最高点で自由落下になるという方法は間違いではありません。このようは発想で、知識を組み合わせて解くこと自体はすばらしいことです。

具体的な数字で検討をしてみると、不思議と文字式が身近に意識され、頭にはいってきますよね。覚えておきましょう。

医療系・看護学生用のやりなおし教科書「まるわかり基礎物理」は高校物理を復習しつつも、一歩先の大学での物理も入ってきます。現場ので授業を教えている久留米大学客員教授の時政 孝行先生に監修にはいってもらい、一部執筆をしてもらいました。

ボディーメカニクスなど面白くかけていると思います。医療系の学生・看護学生は参考にしてみてください。ぼくも医療系の大学生に教えてるような機会がほしいものです。困っている学生が多いので、喜んでくれるかな(^^)

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桑子 研(くわこけん)
 1981年群馬県生まれ。サイエンストレーナーとして全国で実験教室やICT活用講演会を開いている。著書は『大人のための高校物理復習帳』(講談社)、『きめる!物理基礎』(学研)など10冊。